エスケーエイトにおける瞳
エスケーエイト新作アニメ制作決定おめでとう!
というわけでもないけど、エスケーエイトというアニメにおいて非常に重要な表現として存在する『瞳』について以前から書き残して置きたかったので記事にしておこうと思う。(一応ツイッターでも喋ってたけど)
最後まで見てる前提で書き残しているので、まだ見てない人は注意してください。
エスケーエイトにおいて1話から『瞳』については強調的に表現され、作品において非常に重要なポイントとなっている。
エスケーエイト1話はレキの語りから始まり、レキの語りで終わる。
『子供のころ、まだヒーローのテレビとか見てた頃さ、そのヒーローが言ったんだ。お前の幸せはなんだ?って。
何が幸せかわからないまま終わるなんて絶対に嫌だって。でも何が幸せか答えられるやつなんているか?小学校にも入ってないガキに怖いこと言うなって思ったよ。~(中略) …でもどれも俺の幸せじゃない。俺は知ってる、俺の幸せは…』
(SK∞ エスケーエイト第1話 レキのセリフより引用)
レキは既に自身の幸せを知っていると語る。無論、それはこの物語のメインである「スケボー」である。
そして1話のラスト、ランガの花火の中での『雪のシーン』において
『その時、俺は確かに見たんだ。この沖縄に舞う、白い雪を。』
(SK∞ エスケーエイト第1話 レキのセリフより引用)
と語り、そしてその瞳にはランガが映っている。レキが「ランガのスケボー」を瞳に映した瞬間であり、ここで1話はシマるわけである。
ではこのランガの存在は何か? ランガはレキにとっての「スケボー仲間」として、弟子のような立場として、友達として関係が深まっていく。
レキはランガというスケボーを共に楽しむ「幸せ」をこの時見つけたのだ。
みんなでやるから楽しいスケボー、ともに楽しむ相手でありそんなワクワクを生み出すスゴイやつであるランガを。
レキと共にランガの姿を瞳に映し、ランガを追いかける人物となるのが愛之介、愛抱夢である。
愛之介は普段は自身の本当の姿を隠し、エスにおいては自身をさらけ出す形として愛抱夢に変身する。
だが愛抱夢の姿も「本当の愛之介」の姿ではない。一人だけで走るスケボーをする彼もかつては自身の秘書である正にスケボーを教わり、そして笑顔でスケボーを楽しみ、また仲間と共にスケボーを楽しむ過去がある。
しかしあることをきっかけに彼は「自身の幸せ」を見失い、また彼を瞳に映す相手である正の存在も信用できなくなり、自身の幸せを拒絶することとなる。
故に愛抱夢の姿の時、彼は自身の瞳を隠し、一方的な愛を求めている。
そんな彼もレキやランガとの出会いによって運命が変わっていく。
ランガは逆にレキと出会うまで、ある『喪失』を経験している。それによってかつての「楽しさ」、「幸せ」を見失っている。
それは父親の死、楽しかったスノーボードの中での父親の死の経験によって見失ったものである。
愛抱夢がランガに見出したものはスケートボードにおいて自身に追いついてくる潜在能力だけではなく、この『喪失』も同時に存在している(むしろ文脈的にはここの方が大きいのではないか)と自分は考える。
ゾーンの中で、ランガは『自分たちだけの世界』と愛抱夢が語る世界を、かつて自分が父親を失った瞬間と重ねている。
父親という「自分を見てくれる相手」、共に楽しむ相手、幸せ。それを失った瞬間こそがゾーンの文脈として存在している。そして愛抱夢、愛之介もこれと同様に「自分を見てくれる相手」を失った経験こそがゾーンに引きこもろうとする動機の一つと言える。
しかしそんなランガをゾーンから引っ張りだすのは、ランガの『瞳』に映ったレキのカスタマイズしたボードなのだ。
『スケボーは…楽しい!』
(SK∞ エスケーエイト第12話 ランガのセリフより引用)
レキを瞳に映すことでランガは自身の幸せ、「スケボーは楽しい」ことを思い出し、ゾーンから抜け出し、そして愛抱夢さえもゾーンから引っ張りだすのである。
『そっちは楽しくない!』
(SK∞ エスケーエイト第12話 ランガのセリフより引用)
エスケーエイトにおける「瞳」は相互関係による「彼らの持つ幸せ」を示すものであり、同時にそれを見失っており拒絶する愛抱夢の存在を強く引き立たせるものとも言えるだろう。
最終回においてランガは自身が失ったものと同時に、それを埋めたレキという存在を再確認し、自身の幸せに確信を持つ。
そして愛抱夢も、自身の本当の姿を常に見つめ続けていた相手を思い出し瞳を向けるのである。
エスケーエイトのラストは、1話のレキの言葉をランガが踏襲する形で終わる。
「俺には最初何が怖いのかよくわからなかったけど、今はちょっとだけわかるよ。 自分の幸せがわからないってすごく怖いことだって。
でも、俺はもう知ってる。俺の幸せがなにか。俺の幸せは…」
(SK∞ エスケーエイト第12話 ランガのセリフより引用)
ランガが向かう先にはレキが待っている。
エスケーエイトという物語は相互の関係性によって気づくことができた「幸せ」を改めて確認して終わる。 その瞳にはそれを気づかせてくれた相手を映して。